文章表現が深い!小説「伏」の魅力とは

皆さん、伏という小説をご存知でしょうか?

作者は代表作「私の男」で08年に直木賞を受賞した桜庭一樹。

この小説が原作となり、2012年10月20日には「伏 鉄砲娘の捕物帳」でアニメ映画化もされました。この小説、アニメ映画もいいですがやはり原作となる今作は物語がとても深いんです!今回は私が読んで感じた小説「伏」の魅力について紹介していきます。

Kindle版もありますので電子書籍でもサクッと読めちゃいますよ!



1 物語の構成・あらすじ

この物語、通常の小説と違い中盤にこのタイトルにもある「贋作・里見八犬伝」が大半を占めてきます。この物語が入ることで、本編の女漁師浜路を主人公とした物語がより一層引き立つ構成となっています。


あらすじ

江戸では「伏」という、人であって人ではない、犬の血が流れる異形の者_彼らが人を襲う凶悪事件が勃発していた。幕府はその首に莫大な懸賞金をかける。

14歳の少女であり猟師である浜路は同じく猟師の兄に誘われ、江戸へ伏狩りをするためにやってくる。そこで切れ長の瞳を持つ伏の少年・信乃に出会い、残酷さと孤独、妖しいを持つ伏たちの、過去からの壮大な因果を巡る物語に巻き込まれていく。光と影、過去から現在へとつながる伏たちの因果の輪_。その果てには何があるのか。伏とは、人とは_。作者桜庭一樹が描く切なくも美しい珠玉の物語。



この小説の注目ポイント①: 残虐さと切なさ、美しさを併せ持つ「伏」の魅力

時には衝動的に人を襲い残虐さを持つ伏_。しかし彼らは共通して、胸の奥にある思いを抱えています。伏がなぜ存在するのか_自分たちはなぜ生まれたのか。そして、心の中に抱える満たされない思い。この小説内では、光と闇という表現で彼らのことが象徴されています。


例えば、信乃の言葉により最も伏らしいと表現されている若い伏、毛野。彼は小説の中で次のような言葉を放っています。


『なぜだか、世の中ってものが憎くて憎くてたまらねぇのよ。気づけばいつも心に雨あられがザーザー降っててよぅ。苦しくて、悔しくて、誰のこともどうでもよくってよ。それでも相変わらず、誰かに優しい手をさしのべてほしくってたまらねぇ。それでよくかっとなってよ、気づいたときにゃ、この手は血に濡れてひどくしっとりとしてるのさ』


この一文は、伏の本質を現した言葉といえます。この小説に出てくる伏は皆、人と犬の間という中途半端な状態にありながら、一人ひとりやりきれない思いを抱えている_。そこが、この物語をより魅力的にしているといえるでしょう。


彼らは普通の人間とは違い、寿命も犬と同じ。長くても20年しか生きることができません。そんな伏だからこそ、限られた命を精一杯生きようとする、その姿に心動かされるのかもしれません。

花魁の凍鶴太夫、大男で医者の現八、冒頭から登場する青年、信乃など、様々な伏が数多く登場するのも、この本の魅力です。



この小説の注目ポイント②: 女猟師・浜路とそれを取り巻く仲間の快活さ

伏が持つ一種の暗さとは対等的な存在であるのが、14歳の女猟師、浜路の快活さです。

冒頭の、浜路を表す一文がこれ。


『娘は、よく見ると目元のぱっちりとしたなかなかかわいらしい顔立ちをしていた。だが、なにしろこの、息まで凍る真冬の江戸にいるというのに、から首まで真っ黒に日焼けし、髪も、まともに梳いたことさえないのかやたらめったら絡まり、まるで蜘蛛の糸が夜中に反乱を起こしたようである。洗いざらしの着物も、ちょっと町では見たことのない、わけのわからない格子模様。いったいどんな山の中から降りてきたのか、いぶかしいことこのうえない。』


田舎者丸出しで登場した女の子・浜路と、兄の道節。飯屋の若おかみである浜路や、謎の怪しい眼鏡の男、冥土。この本の中には魅力あふれる個性豊かなキャラクターが数多く存在します。そんな彼らの会話は生き生きと描かれており、時にくすりと笑えるもの。小説を読んでいると彼らの姿がありありと目に浮かぶようです。


快活な彼らのキャラクターが、今後どうなっていくのか、先をどんどん読み進めたいと思える重要な要素といえます。



この小説の注目ポイント③: 人と人ならざる者が、猟という手段を通じてつながる

この小説では、人は狩るもの、そして伏は狩られるもの。そんな彼らが、猟という手段を通じ、かかわりあっていくという構成が素晴らしいです。本来交わらない生き物同士が、猟を通じてつながり、やがて深いつながりになっていく_その様がこの小説の大きな魅力です。

特に後半、伏である信乃と浜路が地下道を一定の距離を保ちながら並んで歩くシーンがあるのですが、つながりそうでつながらない_その微妙な距離感が、もどかしくもありまた素晴らしくもあります。


「心の底から人を愛したことがない。誰のことも、ほんとを言やぁ、どうでもいい。このまんま死ぬのは、俺ぁ、いやだぜぇ…」「それでも死ぬんだ。なんでって、おまえは伏で、ここに猟師がいるからな」浜路は迷うことなく拳銃の狙いを定めた。苦痛に青白い顔をゆがめながら、信乃が問いかける。「そんなら、猟師。おまえは見たことがあるのかよ。月の光を。色恋なんぞまだ知らんとうそぶく、ちっちゃな浜路よ



まとめ

ここまで、小説「伏」の魅力について、筆者が独断で思うところについて挙げてきました。

ここで挙げた以外にも、伏の起源となる美しき伏姫の物語である中盤の「贋作・里見八犬伝」など_。語りつくせぬ魅力はたくさんあります。

最後になりますが、終盤の一部を抜粋してお別れしたいと思います!



「俺はよ。猟師の浜路。」と、信乃がつぶやくように語りだした。「なんだよ。伏の信乃」「じつはよ、その因果の、果、の時を知っているのだぜ」「なんだと」いかにも無口なたちらしく、しばらく黙って顎なぞかいていたが、やがて低い声で、「それはなぁ、もうとうに終わったことでな。つまりいま俺とおまえがいるここは、残念ながら因果の輪が閉じた後の_物語などというものがとうに終わった後のせかいなのだ。おまえはすべてが終わってからの江戸に、一人のこのこ現れたというわけよ」「いったいどういうことだよ」



伏を巡る因果の物語とはいかに_。

この続きはぜひ実際の本の中でお楽しみください!

ellie's Ownd

”ちょっとおもしろい”をコンセプトに、新しいもの好きの筆者が様々な情報について書きだすサイト。ジャンルは主に、アート、インテリア、本、など。おしゃれで最先端のものを発信していきます。

0コメント

  • 1000 / 1000